絶滅危惧食 生成り料理

梅市

大阪市心斎橋

梅市 主人 奥田高光

天下の台所、大阪において江戸時代から受け継がれてきた関西料理「生成り」。日本食の味と精神に精通する、55年の経歴を誇る名店の主人が、「生成り」の本質と料理の奥深さを語ります。

食材のよさを最大限ピックアップすること

「生成りってなんや」と言われたら、みんな、いろいろなものを削ぎ落とした、その材料だけの味のものって言うんですけど、僕はそうじゃないと思うんですよ。その食材にしかない味をピックアップして引っ張ってくるのが「生成り」やと思う。

関西料理の醍醐味は、「薄口甘口しんみりめ」とか「薄口旨口しんみりめ」って言うんですけど、その「しんみりめ」というのが、みんなわからない。僕もうまく言葉に換えられない。「しつこいんですか?」と聞かれるけど、しつこくはない。「濃いんですか?」とも聞かれるけど、濃くもない。じゃあ、薄いのかというと、絶対薄くはない。普通に食べている薄味よりも、少し踏み込んだ味って言うんですか。「しとっ」とした味、メリハリのついた味、調和のついた深さがある。そこを「しんみりめ」と言うんですけどね。

関西料理に欠かせない調和のとれた出汁

これは僕の好みなんですけど、お吸い物をつくるときは、ひいたばかりではなく、粗熱が取れた出汁を使います。鰹の香りが収まって昆布出汁となじんできたら、もう一度吸い物を沸かして、煮立ったらすぐに塩と醤油を加えて、薄い味になるように加減する。これも、材料のいいところをピックアップする「生成り」の一つやと思います。やっぱり昆布と鰹の調和でおいしさを感じてほしい。

おいしい昆布出汁をとるためには、低温で引くこと。前の晩から水につけて昆布の出汁をとったり、11℃前後の水に30〜40分昆布をつけたりしても、出汁が出るんですけど、粘りますよ。キレ味がなくなりますよ。炊けば粘りがなくなってサラッとするけど、やっぱりキレてないですね、そういう出汁は。昆布を低温で引っ張って出汁をひいて、鰹節を入れて調和をとる。この調和を一番重視しなくてはいけません。

料理はわからないからおもしろい

長くやってきても関西料理ってわからんもんです。僕がまだ弟子だったとき、お粥に入れる餅を蒸すか焼くかで、師匠と議論になりました。師匠は粥になじむから蒸したほうがいいと言う。僕はパンチが効くから焼いたほうがおいしいと。朝まで議論しましたが、結局平行線のまま終わりました。いまだにどっちがいいのかわかりません。でも、料理ってそういうものではないんですか。どっちの答えも一長一短がある。そやけど、どちらが良いかを決めるのは料理人じゃなしに、食べはる人やと思うんですよね。その人が喜ぶようにつくればいいと思います。

ただ、僕らみたいに懐石料理専門でやっているもんは、お客さんに座ってもらったら、メニューを見せません。献立を見せません。そのまま、こちらがつくった料理を食べてもらいます。要は、こちらの主張を通すんです。だから、その前にお客さんの気持ちを汲み取らなければいけません。僕らの気持ちとお客さんの気持ちが調和しないといけないんです。

やっぱり、関西料理は「調和」というのが一番大事やと思います。懐石というのは、単品料理を一品ずつ順番に食べるというだけじゃなくて、すべての料理で一つなんですよ。突き出しから始まって最後の水菓子までで一つの料理なんです。そのなかに起伏があるので、どこにその中心を置くかが重要です。ある料理が次の料理を引き立てる添え物のようになっていることもある。そのへんの料理と料理の「調和」もおもしろいので、ずっと関西料理をやっているんです。